養蜂場だより

スズメバチが気になる季節

養蜂家を悩ませるスズメバチの生態

秋も深まり、ハイキングやキノコ狩りなど行楽シーズンが到来していますが、スズメバチによる刺傷事故が増える季節でもあります。ミツバチにとってもスズメバチは天敵であり、養蜂家の悩みの種です。スズメバチの被害を抑えることが、ミツバチの冬越しを成功させる必要条件であるといっても過言ではありません。
スズメバチの生活史は、ミツバチと大きく異なります。女王蜂は単独で朽ちた木や土の中などで冬眠します。そして5月初旬、眠りから覚めた女王蜂が、たった1匹で巣作りを始め産卵し、卵が幼虫になったら、餌集めと育児もこなします。成虫の働き蜂が増えてきてようやく産卵に専念できるのです。晩秋に雌蜂と雄蜂が複数育てられ、雌蜂は他巣の雄と交尾をして越冬し、女王蜂として巣作りを始めるというサイクルを毎年繰り返しています。
我々は、雌のスズメバチがはちみつの発酵液に集まる習性を利用して、春に養蜂場の周辺に発酵液を吊るすことによって捕獲し、スズメバチの巣を少なくするための努力をしております。

  • スズメバチの女王蜂がつくり始めた巣
  • ペットボトルの中は、はちみつの発酵液。産卵前のスズメバチを捕獲し、繁殖を減らします。

    ペットボトルの中は、はちみつの発酵液。産卵前のスズメバチを捕獲し、繁殖を減らします。

セイヨウミツバチを脅かす2つの強敵

大型のスズメバチは日本に7種類生息していますが、種類ごとに餌や営巣場所などを変え、巧みに棲み分けています。養蜂で大きな被害を受ける種は、オオスズメバチとキイロスズメバチの2種類です。オオスズメバチは、体長が4センチもあり、世界最大の獰猛なスズメバチです。特徴は、格好の餌場が見つかったときに匂いでその餌場を巣仲間に教え、集団でエサを集める特殊な習性をもっています。他のスズメバチの巣を襲うほどで、セイヨウミツバチにとって最も恐ろしい天敵となっています。養蜂家はスズメバチ駆防器の装着や、スズメバチが出す、仲間に餌場を教えるための匂い(フェロモン)を利用した、粘着性のスズメバチ捕獲器を置いて被害の軽減を試みます。しかし、外来種であるセイヨウミツバチの周りには、もともとオオスズメバチがいなかったため、対応がわからず勇敢にもオオスズメバチに立ち向かい、噛み殺されて働き蜂が激減してしまうことがしばしばです。養蜂家の保護なしでは簡単にセイヨウミツバチが全滅してしまうのです。
一方でキイロスズメバチは、ミツバチの巣を全滅させることはないのですが、巣の前に頻繁にやってきては静止飛行(飛んだままその場に止まること)をして、1匹ずつミツバチを捕らえてから近くの枝先に止まり、肉団子にして巣に持ち帰ります。この行動がミツバチに恐怖感を与えるようで、ミツバチが怖がり巣から出て餌集めにいくのを控えるようになってしまうのです。このスズメバチは都市適応型スズメバチといわれており、餌や営巣場所に好みが少なく、人の残した残飯までも餌にしてしまうほどです。
キイロスズメバチとは対照的に、オオスズメバチは生息環境に制限を受けやすいために住宅環境になじめず、自然豊かな場所でないと生きていけません。ちょうどそんな場所が養蜂環境にも適した場所なのです。一見厄介者の生物ですが、食物連鎖の上位に位置するスズメバチは生物多様性に欠かせない大切な存在です。
弱肉強食の厳しい大自然の中で生き抜くミツバチから生産される養蜂産品。ミツバチに感謝し愛情を込め、スズメバチに注意しながら今日も養蜂場で仕事をしています。

  • 集団で巣を襲うオオスズメバチ。

    集団で巣を襲うオオスズメバチ。

  • スズメバチ駆防器をつけて、巣箱の中のミツバチを守ります。

    スズメバチ駆防器をつけて、巣箱の中のミツバチを守ります。

  • 餌場に仲間を集める匂いを利用し、スズメバチを捕らえる粘着性の捕獲器。

    餌場に仲間を集める匂いを利用し、スズメバチを捕らえる粘着性の捕獲器。

  • 捕らえたミツバチを団子状にするキイロスズメバチ。

    捕らえたミツバチを団子状にするキイロスズメバチ。

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